■JULIA GORTON & RICK BROWN “BEAT IT! ZINE ANTHOLOGY”■
JULIA GORTON & RICK BROWN
“BEAT IT! ZINE ANTHOLOGY”
FUÜDOBRAINにて販売開始。
これは、完成された歴史を後から整理した資料ではない。
ニューヨークのPUNKが、POST-PUNK、NO WAVE、そしてまだ名前すら持たない異形の音楽へ分裂していく、その瞬間に作られたファンジンである。
『BEAT IT!』は、写真家Julia GortonとミュージシャンRick Brownによって1977年に創刊。当時Parsons School of Designで学んでいたGortonが撮影、インタビュー、タイプ打ち、レイアウトを担当し、Brownが中心となって記事を執筆。二人がライブへ足を運び、レコードを聴き、実際に面白いと感じたものを自分たちの手で誌面へ叩き込んだ。
直接的なきっかけとなったのは、ロンドン発のPUNKファンジン『Sniffin’ Glue』。しかし『BEAT IT!』は、その形式を単に模倣したものではありません。アメリカのPUNKが定型化される前夜、Pere Ubu、Television、Ramones、Dead Boys、The Dictators、Talking Heads、DEVO、The Contortions、DNA、Mumps、The Jam、Elvis Costello、Dr. Feelgood、Captain Beefheartらが、まだ同じ地平で語られていた時代の混乱と速度を記録している。
ジャンルによって情報が整理される以前、奇妙で刺激的な音が、擦り切れたレコードプレイヤーから次々と現れていた時代。そこではPUNKとNEW WAVE、NO WAVE、POWER POP、ART ROCKの境界は流動的であり、重要だったのは分類ではなく「今までに聴いたことがない」という事実だけ。
写真、インタビュー、ライブ評、レコードレビュー、手書き文字、タイプ原稿、切り抜き、ドット、線、コピー機の潰れやズレ。現在なら整えられてしまう印刷上のノイズも含め、誌面そのものが当時の音楽と同じ切迫感を持っている。
注目すべきは、これが既存メディアによる取材記録ではないこと。GortonとBrownは、バンドの外側から文化を分析したのではなく、同じクラブへ通い、レコードを買い、友人たちと情報を交換するシーンの当事者であった。そのため、有名になった後のミュージシャン像ではなく、評価も立場も固まる前の生々しい姿と発言が残されてる。
今回のアンソロジーでは、45年以上を経てオリジナル版『BEAT IT!』を一冊に集成。さらにJulia GortonとRick Brownによる、創刊の経緯や当時の制作工程を振り返るエッセイ、未収録だったアーカイブ・グラフィックも追加されている。
コピーショップ、タイプライター、フォトスタット、ハサミと糊。資金も設備もない状態から、情報を自分たちで作り、自分たちで複製し、自分たちで店へ持ち込んで流通させる。現在では「DIY」とひとつの様式として呼ばれる方法が、まだ必要に迫られた実践だった時代の具体的な記録でもある。
写真集『NOWHERE NEW YORK』が、Julia Gortonのカメラを通して1970年代末のダウンタウンを見せるものだとすれば、『BEAT IT!』は、その写真が当時どのような言葉、音楽、印刷物と結びつき、実際に人々の手へ渡っていったのかを確認できる一次資料だ。
PUNK/NO WAVEの音楽史として。
インディペンデント出版とファンジン文化の資料として。
そして、デザインを専門家へ委ねず、衝動と限られた手段だけで形にしたグラフィック作品として。
過去を懐かしむための復刻ではない。
「自分たちで作り、自分たちで伝える」というPUNKの根本が、152ページにわたって残された一冊である。
BEAT IT! ZINE ANTHOLOGY
Julia Gorton & Rick Brown
Self-published, 2024
Softcover
152 pages
8.75 × 11 inches
Full color throughout
English text
https://www.instagram.com/julia_gorton_nowave/
JULIA GORTON
1976年、18歳でデラウェアからニューヨークへ移り住んだ写真家、デザイナー、ヴィジュアル・アーティスト、ジュリア・ゴートン。
パーソンズ・スクール・オブ・デザインに通う傍ら、CBGB、Tier 3、Hurrahといったダウンタウンの現場へ足を運び、急速に形成されていったPUNK/NO WAVEシーンをポラロイドで撮影。Theoretical Girls、Mars、James Chance and the Contortions、Lydia Lunch、DNAをはじめ、既存のロックの形式を拒絶した音楽家やアーティストたちの姿を記録していった。
彼女は後世からその時代を振り返った“記録者”ではない。
NO WAVEファンジン『BEAT IT!』のフォトグラファー、クリエイティブ・ディレクター、発行人として、1976年から1980年のニューヨーク・アンダーグラウンドに当事者として入り込み、その内部からシーンを誌面へ定着させた人物である。
強烈なコントラストを持つモノクロ写真。
切り貼りされたグラフィック。
DIYによるレタリングと、意図的に崩された誌面構成。
ゴートンの作品は、音楽家の姿だけを記録したものではない。まだNO WAVEという言葉さえ定義されきっていなかった時代の速度、緊張、退廃、そして都市に漂っていた不穏な空気そのものを封じ込めている。
その写真は『New York Rocker』『NO MAGAZINE』『The New York Times』『Dazed』『i-D』などに掲載され、ORK Records、Lust/Unlust、ZE Recordsをはじめとするインディペンデント・レーベルの作品にも使用。Thurston MooreとByron Coleyによる重要資料『NO WAVE: POST-PUNK. UNDERGROUND. NEW YORK. 1976–1980』にも数多く収録されている。
さらに、MoMA、メトロポリタン美術館、ブルックリン美術館、ニューヨーク市立博物館などでも作品を展示。現在も写真、コラージュ、ZINE、Tシャツといった媒体を横断しながら、当時から一貫する独自の視覚言語を更新し続けている。
歴史として整理される以前のNO WAVE。
その名もなき瞬間を、最前線で目撃した一人。
ジュリア・ゴートンの作品は、失われたニューヨークの回顧録ではない。
現在まで生き続ける、アンダーグラウンドからの一次資料である。
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